あなたにとっての心安まる作業とは

 武術を始めて稽古以外に継続してやっているのは洗濯である。当然と言えば当然であるが、基本手洗いなので藍染めが周囲に付着しながらおこなうのが常である。最近は袴よりも剣術衣の方が色合いが薄くなってきたので、随分着ていなかった二剣の剣道衣を着ている。(これが水を吸うと重い)

 半乾きになったところで昨夜は袴にアイロンを掛ける。表と裏それぞれに掛けるのでそれなりに時間が掛かってしまうが、身体への負担が少なく綺麗になる作業というのは精神的に安らぐものだ。昔は水撒きが心安らぐ作業として仕事で没頭していた記憶がある。製鉄所での作業で、鉄分の混ざった汚水処理施設があり、その巨大な逆円錐形のシックナーという設備に汚水が入り、レーキというゆっくり回転する二つの長いスラッジ(鉄のヘドロのようなもの)をかき寄せる装置が、逆円錐形の池の中心下部にスラッジを掻き寄せる。それをスピゴットポンプで調整槽へ送り、上澄みをシックナーへ戻し、鉄の比重が7.85のため、高炉の休風工事が入ると汚水の比重が高くなり、そのままポンプで処理工場まで送ると、途中どこかで配管が詰まってしまう恐れがあるため、沈降する汚水はスラリーポンプで、ラグーンという大きな長方形のプールに比重の重い汚水を一時溜めておく必要がある。

 汚水の比重が安定し、スラリーポンプで直接汚水を流せるようになりラグーンへの仮溜めが落ち着くと、ここに溜まった比重の高い汚水を水中ポンプで再びシックナーへ戻す作業となる。ここまでの記憶は20年以上前のものなので不確かな部分もあるが、この鉄を含んだ汚水は、沈降し固まりやすく放置して固めてしまうと関係会社のローリーで何台分かの処理費用が掛かってしまう。だからそうなる前に作業の合間を見て、または優先的に汚水がカチカチになる前に、高圧水で固まり掛けている汚水を雪崩のように崩しながら(要領が必要)水中ポンプでラグーンを空にする作業は私にとって無心になれる感じがした。色々な蛇口から高圧水を使って、効率よくスラッジを雪崩のように勢いよく崩す作業は何とも心地よい時間だった。

 ああ、思い出しながら書くというのは大変。ほとんどの人は想像出来ないと思うが、製鉄所の中というのは敷地だけでも東京ドームの550倍とサイトで調べると書かれており、工場内は電車が走り(人を乗せるためでは無く溶けた鉄を運搬するため)保安部の白バイが走り、ダンプカーやショベルカーというのは、巷で見かけるサイズとは比べものにならないほど巨大(運転席に梯子で登る)なものであり、前述したシックナーもそうであるが、さまざまなものが巨大な設備である。高校を卒業して、この広い現場を作業用車やカブに乗って三年間現場を見て回り、残りの三年間は運転監視業務(第二高炉送風機)という三交代勤務の職場へ移動となった。ここでは製鉄所のシンボルである高炉へ巨大なブロワーで風を送る部署であり、その他にも各浄水場などのポンプやバルブの開閉などCRTという画面からタッチ操作で運転監視していた。(今は進化しているだろうなぁ・・・)

 三交代というのは(参勤交代ではありませんよ)24時間の監視業務のため、8時間ずつ三組に分かれて早朝から午後までの組、午後から夜中までの組、夜中から早朝までの組、残りの一組は休日、というふうに分かれていた。先日、ロフトに上げた段ボールの中から、職場の送別会で仲間や上司(殆ど父親ぐらいの年齢でしたが)から書いていただいた寄せ書きを段ボールの中から見つけたので、当時のことを良い想い出として思い返すことが出来た。みなさん今頃どうしていらっしゃるか・・・

 あれから20数年が経ち、私と同期で親友のTは二本線(作業長、今は主任というのかな)となり、たまに東京に出張に来たときに飲むことがあるが、オマエと呼び合うあの頃と変わらない時間が戻ってくることに懐かしさというか、若い未熟な頃に親しくなった友というのは掛け替えの無いものだと時の流れが教えてくれた。私にとって無駄では無い六年間であった。

 
 そして本日は午後から出版社の方と打ち合わせ&取材。自分自身人見知りであると認識しているが、もうこの打ち合わせではその様子は微塵も無い。前回も記したが身内と積る話をしているような精神状態なので、言葉を選出しなくても流れの中で自然に出てきてしまう。そこが編集者の力量であり、このような方とお仕事が出来て有り難いというか、その中でさまざまに学ばせていただく事があります。精神的にも肉体的にもハードなお仕事だと思いますが、ひとそれぞれの道を進み、その何処かで同じ道を進める時間があれば、その道は同じ道でありますが、それぞれの道であり、だからこそその道が確かな道であると確信できているのだと思います。

 人生は何が起こるか解りませんが、その一瞬一瞬が掛け替えのない時間であり、だからこそ、それで十分と思うことも出来るのだと思います。偶然は色々な時の流れの延長にあり、時の流れ無くして今の日々は訪れない。どの道に行こうとも、芯が変わらなければ、その答えは運命に沿っているものだと思うのです。


2021年2月11日(木/建国記念の日)『剣術 特別講習会』(お申し込み受付中)

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2021年2月 武術稽古日程

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甲野善紀先生からの紹介文

2021-02-10(Wed)
 
プロフィール

金山孝之


     金山 孝之
  Takayuki Kanayama


1975年生まれ
北九州市門司区出身
世田谷区在住

松聲館技法研究員

金山剣術稽古会主宰

Gold Castle
殺陣&剣術スクール主宰

高齢者住宅 クラーチ溝の口
クラーチ剣術教室講師

パークシティ溝の口
杖術 巴の会主宰

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